少し空が展けて薄日の中に雪が舞っているのが見えた。かれは無風で通り過ぎてきた道を振り返ることもなく、綿を踏むようなおぼつかない足を踏み出して歩み続けていた。この時かれの「世界」はたしかに分離し始め、通過儀礼としての余裕のない攻撃性を示し始める。突如として風が吹き、やがて八重咲きのピンク色の花がかれの目の前を舞う。色欲に犯された目で見廻すと目を驚かすものは何もない見慣れた景色が異様にはかなく澄み切って新鮮な姿で立ち現れた。この逸脱のプロセスののち、かれは複雑な此岸と調和するために純粋性を忘れていく。そして、かれは非日常的な彼岸性の観念を自分の拠り所として求めてゆくような必然性を手にしていくのである。